第1回の前半60分。本日の進め方を共有したあと、生成AIが何者で、どこで間違え、何を入れてはいけないのかを、公式の数字と実際に起きた事例で押さえます。
生成AIに一度も触れたことがない方も対象です。難しいことは扱いません。本日のゴールは、自分の仕事でAIが使えたと言える小さな成功体験を1つ持ち帰ることです。「失敗しても大丈夫、まず触ってみる」を合言葉に進めます。
職種・経験年数は問いません。前半は座学、後半は手を動かしていただきます。
自分の業務でAIを試し、明日も使ってみたいと思える手応えを1つ持ち帰っていただきます。
業務PCを起動し、ブラウザで gemini.google.com にアクセスして、ご自身の Google Workspace アカウントでログインできる状態にしておいてください。使えるかどうかは情シスご担当の判断によりますので、開けない方はその場で講師がフォローします。
本日は受講者の皆さん全員で1枚のクラス共有シート(Google スプレッドシート)を使います。各演習の結果や気づきを、ご自身の名前の行に1行ずつ書き込んでいただきます。手を動かした分だけシートが埋まっていきます。
進み具合は「やってみた/つまづき中/できた」の3つから選んで記入します。講師の指示があったら、当日配布される共有シートのURLを開いてください。
他の方の行が埋まっていく様子が見えると、自分も書いてみようという気持ちが自然に働きます。講師と運営はこのシートを見るだけで全員の進み具合を把握でき、つまずいている方にすぐ声をかけられます。正解を競うものではありません。空欄を自分の言葉で埋めること自体が、今日の参加です。
この章では、生成AIが何者で、何を得意とし、どこで間違えるのかを45分で押さえます。座学中心ですが、画面上で短いデモを挟みます。生成AIは確率的に次の言葉を選ぶ仕組みで、これが便利さと危うさの両方を生みます。
生成AIはこれから来る技術ではなく、すでに業務で使われている技術になりました。日本企業の業務利用率は55.2%、世界各国とは依然差があるものの、社内活用は加速しています。
すでに多くの会社が使い始めています。総務省の調査でも、日本企業の業務利用は55.2%まで伸びています。今日はその流れに、無理なく一歩踏み出す時間です。
使うのは Gemini(Gemini for Workspace、業務契約版)です。Google I/O 2026 で Gemini 3.5 Flash が発表されて標準モデルになり、上位モデルの 3.5 Pro も順次提供が進んでいます。文章の要約や作成、翻訳、表データの整理、画像の読み込みと説明まで、ブラウザ1つで扱えます。
定型文の下書き、議事録の要約、長文の言い換えといった「ゼロから1を作る手前の作業」はAIが急速に肩代わりしています。一方で、事実が正しいかの最終判断、相手の状況をくんだ意思決定、責任を伴う承認は人間の仕事として残ります。AIに任せる部分と自分が担う部分を分けて考えると、使いどころが見えてきます。
同じブラウザに文字を打つので混同しがちですが、両者は目的の質が違います。検索エンジンは正解の在りかを示すツールで、生成AIはあなたの状況に合わせて回答を組み立てる相手です。
| 観点 | 検索エンジン(例:Google) | 生成AI(例:Gemini) |
|---|---|---|
| 得意なこと | 事実・URL・公開情報を素早く引き当てる | 状況を整理し、文章・要約・案を組み立てる |
| 1セッション平均滞在 | 約5分 | 約14分 |
| 使い方の前提 | キーワードを打って結果を選ぶ | 文脈を伝えて対話する |
| 典型的な失敗 | 検索結果が古い・偏る | もっともらしい嘘を返す(後述) |
「来週の社内勉強会のアジェンダを1行で出して」と、「あなたは保険業界の研修担当です。来週、新人5名向けに60分でガイドラインの読み方を教えます。アジェンダを5ブロックに分け、各ブロックの所要分も付けてください」を、同じ Gemini に投げて回答品質の違いを画面でご覧いただきます。1回で終わらせず、3回4回と聞き返す前提が大切です。
生成AIは、それらしく続く言葉を組み立てているだけで、正しさを確かめてはいません。そのため、自信満々に存在しない事実を語ることがあります。いちばん身近なのは、社内の人名・数字・規程の条番号を、それらしく間違えるケースです。ぱっと見は正しそうなので、そのまま資料に載せると気づけません。だから、事実は自分で確かめる。これがいちばんの対策です。
航空会社相手の訴訟で、原告弁護士が ChatGPT に判例検索させ、6件の存在しない判決を引用。原典を求められて発覚し、罰金5,000ドルと懲戒対象になりました(Mata v. Avianca)。
遺族割引の払い戻し可否について、サイト上のチャットボットが誤回答。BC州の民事解決トリビューナルはチャットボットも会社の表示として、812カナダドルの賠償を命じました。
デロイト豪州が29万豪ドルで納品した福祉システム監査の報告に、存在しない論文や架空の裁判官引用が混入。研究者が発見し、契約最終支払分を返金する事態になりました。
数字・固有名詞・法令条文・判例は、原典を確認してから文書にする。これだけ守れば、もっともらしい嘘に足をすくわれることはありません。事例のような大きな失敗は、この一手間で防げます。
2つ目は、AIに入れた情報が外に出てしまうリスクです。身近なのは、便利だからと個人の無料AIに業務の文章を貼ってしまう場面です。その入力が学習に使われたり、端末から抜き取られたりすると、会社が知らないうちに情報が外へ出ます。会社が把握していないAI利用を、シャドーAIと呼びます。
半導体設備測定DBのソースコード、歩留まり管理プログラムのコード、社内会議の録音書き起こしが ChatGPT に送信された事案。同社は入力を制限したのち、5月に全面禁止へ進みました。
AIサービス側が侵害されたのではなく、利用者側端末のマルウェアによる窃取と判明。AIそのものより、アクセスする端末側のセキュリティが弱点になることを示しました。
会社が把握していないAI利用は、日本国内でも一定の割合で起きています。
会社が認めた Gemini for Workspace を使い、個人の無料AIに業務データを貼らない。この2つで、シャドーAIと情報漏洩のほとんどは防げます。今日この場で使うのは、会社が用意した安全な環境です。
ダメなことが何かわからないので結局何もしない、という現場が一定数あります。判断基準を明確にすると、リスクを避けながら活用できます。
本研修で扱う Gemini for Workspace(業務契約版)は、入力データがモデル学習に使われない設計です。プロンプト・応答・添付コンテンツは Google 側でも人間レビューされません。とはいえ、上記の入れない項目は契約の有無に関わらず社内ルールとして守る運用が現実的です。
Google の生成AIは、使っているアカウントの種類によって「入力した文章が学習に使われるか、人が中身を見ることがあるか」が変わります。会社アカウント(Google Workspace)は契約上、入力が学習に使われない設計です。それでも機密情報や個人情報は、念のため入れないのが日本の実務の主流です。迷ったら入れない、やむを得ないときだけ次のマスキングをする、と覚えてください。
| データの種類 | 無料版のGemini | 個人の有料プラン | 会社アカウント(Workspace) |
|---|---|---|---|
| 入力が学習に使われるか | 初期設定では使われることがある(設定でオフ可) | 無料版と同じ(オフ可) | 契約上、使われない |
| 機密情報(社外秘・契約・技術情報) | 原則入れない | 原則入れない | 学習されない設計でも原則入れない。必要時はマスキング |
| 個人情報(氏名・連絡先・顧客データ) | 入れない | 入れない | 原則入れない。必要時は伏せ字で最小限だけ |
| 要配慮個人情報(健康・医療・病歴など) | 入れない | 入れない | 原則NG。社内の承認手順と伏せ字化のうえ最小限 |
本日は、会社アカウント(法研の Google Workspace)または研修用に新しく発行された Google アカウントのどちらかを使います。ログイン中のメールアドレスの末尾が会社ドメインなら会社アカウント、そうでなければ個人・研修用アカウントです。判別できないときは講師に確認してください。個人・研修用アカウントの場合は、次のとおり学習オフの設定をしてから使います。
個人向けプラン(無料・有料)は、初期設定のままだと会話が改善(学習)に使われることがあります。設定の「Geminiアプリアクティビティ」をオフにすると、以降は学習や人によるレビューに回りません。会社アカウントは契約で学習されない点が最大の違いです。ただしこの表は一般的な目安です。何を入力してよいかの最終判断は、必ず自社の情報取り扱いガイドラインに従ってください。
マスキングとは、氏名や住所のように、そのままでは個人が特定できてしまう情報を、隠したり別の値に置き換えたりして「誰の情報か分からない」状態にする作業です。今回の研修では、有料の専用ツールではなく手作業で行います。中心に使うのは、実名や社名を仮の呼び名に置き換える「ダミー置換」です。
| 方法 | どうする | 例 |
|---|---|---|
| ダミー置換(今回はこれ) | 実名・社名を一律で仮の呼び名に置き換える | 田中花子→顧客A、○○商事→A社、△△物産→B社 |
| 列ごと削除 | CSVの個人情報の列を丸ごと消す(塗るより確実) | 氏名・電話・住所・メールの列を削除 |
| 一般化 | 細かい値を大きなくくりに丸める | 37歳→30代、住所→都道府県だけ、7月3日→7月 |
| 仮名化 / 匿名化 | 記号に置き換える。仮名化は対応表で元に戻せる、匿名化は戻せない | 田中花子→U001(対応表は別に厳重保管) |
同じ名前は必ず同じ仮名へ置き換えます(ゆらさない)。迷う列は塗るより消すほうが確実です。最後に、備考欄やフリーコメントに実名が紛れていないか、置換後のファイルを目視で見返します。まずは全員「原則そのままは入れない」から始め、必要なときだけ加工する、の順で身につけてください。
リスクを並べましたが、入れないものを入れず、出力を自分で確かめる。この2つを守れば、生成AIは日々の作業を確実に軽くしてくれます。この後のハンズオンで、実際にその手応えを作っていきましょう。
ここからは、Gemini や Google Workspace の少し進んだ機能です。研修の後半(2:30〜2:45)に、講師の画面でデモとしてご紹介します。無料版や会社の契約プランによっては使えない・上限が違うことがあるため、まずは見て雰囲気をつかんでいただく位置づけです。手元で試せる方は一緒にどうぞ。うまく動かなくても問題ありません。
| 機能 | できること | どこから | 使いどころ・注意 |
|---|---|---|---|
| ファイルのアップロード | 手元のPDF・Word・画像を渡して読ませる | 入力欄の「+(ファイルを追加)」→アップロード | 議事録や報告書の要約・質問。会社アカウントは管理者の許可が要る場合あり |
| ドライブから追加 | Googleドライブの資料をダウンロードせず読ませる | 「+」→ドライブから追加(初回は連携を許可) | 共有ドライブの企画書をその場で参照 |
| 画像生成 | 文章の指示から画像を作る(今回は紹介のみ) | ツール→画像を作成 | 資料の挿絵・イメージ図の下案。無料版や一部プランでは使えないことがある |
| Gem | よく使う指示・役割を保存して呼び出す | Web版の「Gemを探す」→新しいGem | 毎回同じ前置きを打たずに任せる。会社の一部プランでは使えないことがある |
Gemは、よく使う指示(役割・守ってほしいルール・出力の形式)をあらかじめ保存し、呼び出すだけで同じ設定のGeminiと話せる機能です。毎回長い前置きを書き直す手間が省け、用途別に自分専用のGeminiを何個も用意できます。作成・編集はGeminiのWeb版で行います。
NotebookLMは、自分が渡した資料だけを読み込んで、その中身に基づいて答えたり要約したりしてくれるGoogleのツールです。ネット全体から探すのではなく、アップロードしたPDF・Webページ・Googleドキュメントの範囲で答えるので、社内マニュアルや分厚い契約書のように「この資料の中身を正確に知りたい」場面に向いています。渡した情報を根拠に答えを組み立てるこの方式は、RAG(検索して見つけた情報をもとに回答を作る方式)と呼ばれます。1つのノートに入れられる資料は、無料版で50件までです。
1. notebooklm.google を開いて新しいノートを作る。2. 手元のPDFを1つ、または興味のあるWebページのURLを1件追加する。3.「この資料を3行で要約して」と質問する。4. 続けて「◯◯について書かれている箇所は?」と聞き、引用元番号で該当箇所を確かめる。5. 余裕があれば音声解説を生成して、資料が会話形式で読み上げられる様子を体験する。